ジャーナリングで本音を引き出す書き方:内省を深める実践法
ジャーナリングは、日々の出来事を記録するだけでなく、自分自身と深く向き合うための強力なツールとなり得ます。しかし、実際にペンを取ってみると、「何を書けばいいのか分からない」「ただの出来事の羅列になってしまう」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。表面的な記述に留まらず、心の奥にある本音や、自分でも気づいていなかった思考を引き出すためには、いくつかの具体的な書き方の工夫があります。
この記事では、ジャーナリングを通じて内省を深め、自分自身の本当の気持ちや考えに気づくための実践的な書き方をご紹介します。
なぜ表面的な記述になりがちなのか
私たちは普段、頭の中で様々なことを考えていますが、その全てを意識的に捉えているわけではありません。また、感情や思考の中には、認めたくないものや、言葉にするのが難しいものも含まれています。ジャーナリングを始めたばかりの頃は、無意識のうちに当たり障りのないことだけを選んで書いたり、感情を通り一遍の言葉で済ませてしまったりすることがよくあります。これは、自分自身と深く向き合うことに慣れていないためであり、決して特別なことではありません。
本音と深い思考を引き出すジャーナリングの書き方
表面的な記録から一歩進み、より深い内省に繋げるためには、いくつかの書き方を試してみることが有効です。
1. 「出来事+感情+思考」で書く
単に起こった出来事を記録するだけでなく、その出来事に対して「どう感じたか」、そして「なぜそう感じたのか」「その時何を考えたのか」を掘り下げて記述します。
- 例: 「今日はプレゼンテーションがあった。」(出来事)で終わらせず、「今日はプレゼンテーションがあった。準備不足を感じてとても緊張した。人前で話すのが苦手だと改めて感じたが、同時に伝えたい内容はしっかり準備できたという自信もあった。次はもっと練習に時間をかけようと考えた。」のように、感情とその背景にある思考、そしてそこから得た気づきまでを含めて書きます。
感情や思考を言語化する過程で、自分自身の内面がより明確になっていきます。
2. 「なぜ?」「どうして?」と問いかける
書いている途中で、自分自身に問いかけを投げかけることで、思考の掘り下げを促します。
- 具体的な問いかけ例:
- その時、あなたは具体的にどう感じましたか?
- なぜ、そう感じたのだと思いますか?
- その出来事から、何を学びましたか?
- もし違う選択をしていたら、どうなっていたでしょうか?
- この状況について、他に考えられる視点はありますか?
- 今、一番気にかかっていることは何ですか?その理由は?
- 本当は、どうありたいですか?
- この感情は、あなたに何を伝えようとしていますか?
これらの問いかけに対して正直に書き進めることで、普段意識しない心の声や、問題の核心に迫ることができます。
3. 感情を具体的に言語化する
「嬉しい」「悲しい」「疲れた」といった一言で済ませず、その感情の具体的な質やニュアンスを表現してみます。
- 例: 「悲しい」ではなく、「胸の奥が締め付けられるような悲しさ」「期待外れで落胆するような悲しさ」「静かに涙が流れるような悲しさ」など、より具体的に描写することで、その感情が自分の中でどのような意味を持つのかが理解しやすくなります。感情の言語化は、感情を客観的に捉え、その感情に圧倒されずに対応できるようになるために重要です。(心理学では、感情を言葉にすること自体が、感情調節に繋がると考えられています。)
4. 身体感覚にも意識を向ける
感情や思考は、身体の感覚と密接に結びついています。書く際に、その時の身体の感覚(例: 肩の力み、お腹の重さ、胸のざわつき)にも意識を向け、言葉にしてみます。
- 例: 「不安を感じている時、胃のあたりがキュッと縮こまるような感覚があった。」「嬉しいことがあると、体が軽くなったように感じた。」このように身体感覚と感情・思考を結びつけて書くことで、自分自身の状態をより多角的に捉えることができます。
5. フリーライティングで思考を解放する
特定のテーマや形式に縛られず、頭に浮かんだことをひたすら書き続ける方法です。思考の検閲をせずに、思いつくままに書き出すことで、普段は抑圧している感情や、論理的には繋がらないような突飛なアイデア、心の奥底にある本音などが自然と出てくることがあります。時間や書く量に制限を設けず、手が止まっても無理にひねり出そうとせず、ただ書くことを続けるのがコツです。
書くことでなぜ内省が深まるのか
ジャーナリングが本音や深い思考を引き出し、内省を深めるのには、いくつかの心理的な理由があります。
- 思考の外部化と構造化: 頭の中で考えているだけでは、思考は曖昧でまとまりがないことが多いです。しかし、紙や画面に書き出すことで、思考が具体的な形になり、客観的に見ることができるようになります。これにより、自分の考えのパターンや矛盾に気づきやすくなります。
- 言語化による明確化: 曖昧だった感情や感覚を言葉にすることで、それらがより明確になります。感情に名前をつけ、その理由を言葉にすることで、自分の中で何が起こっているのかを理解しやすくなります。
- 内的な対話の促進: 書くという行為は、自分自身との対話のようなものです。問いを立て、それに対する答えを探し、さらに疑問が生まれる、といったプロセスを通じて、自己理解が進みます。
- 心理的距離の確保: 出来事や感情を書き出すことで、それらから一歩距離を置いて見ることができるようになります。これにより、感情に飲み込まれることなく、冷静に状況を分析したり、自分の反応を理解したりすることが可能になります。特に、将来への漠然とした不安や、自己肯定感の低さといった課題に対して、書くことで不安の正体を具体的に把握したり、自己否定的な思考パターンを客観視したりすることが、課題解決への第一歩となります。集中力やモチベーションの維持についても、思考を整理し、何が妨げになっているのか、何が自分を動かすのかを書き出すことで、具体的な対策が見えてくることがあります。
実践を続けるためのヒント
深い内省に繋がるジャーナリングは、一朝一夕にできるようになるものではありません。しかし、継続することでその効果を実感できるようになります。
- 完璧を目指さない: 毎日書けなくても、うまく書けたと感じられなくても大丈夫です。書こうと思った時に、数行でも、箇条書きでも構いません。
- 形式にこだわらない: 手書きのノートでも、パソコンやスマートフォンのアプリでも、自分が一番続けやすい方法を選びましょう。
- 安全な場所を確保する: ジャーナルは、誰にも見られない自分だけの安全な場所であることが重要です。正直な気持ちを書くために、プライバシーが守られる環境を用意しましょう。
- 楽しむ気持ちを持つ: ジャーナリングを義務ではなく、自分自身を探求する好奇心を持って取り組んでみましょう。
まとめ
ジャーナリングで表面的な記録に留まらず、本音や深い思考を引き出すためには、「出来事+感情+思考」で書く、自分自身に「なぜ?」と問いかける、感情や身体感覚を具体的に言語化する、フリーライティングを試すといった具体的な書き方が有効です。
書くという行為は、思考を構造化し、感情を明確にし、自分自身との内的な対話を促進します。これにより、漠然とした不安や自己肯定感の低さ、集中力といった課題に対する自己理解が進み、解決への糸口が見つかることがあります。
この記事でご紹介した書き方を参考に、ぜひ今日からジャーナリングで自分自身の深い部分と向き合う時間を始めてみてください。きっと、新しい発見があるはずです。